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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1663号 判決 1950年6月28日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人秋山要、菊池圭作、宮田光秀の上告趣意第一点について。

所論被告人が柴田次郎に金員を供与したとの事実は、原判決認定の事実と連続犯の関係に立つものとして起訴されたのであるが、第一審判決はこの事実については犯罪の証明がないとしたものであり、原審公判において、檢事は右第一審判決事実摘示のとおり公訴事実を陳述し、所論の事実はこれを公訴事実として審判を請求しなかったことは、記録上明らかである。よって原審は、この事実について、審理するところなく、また、原判決においてもこの点に関する判断を示さなかったに過ぎないのであって、これを以て、所論のごとく審判の請求を受けた事件につき判決を爲さざるの違法があるとすることはできないのである。論旨は理由がない。

同第二点について。

判示第二(一)の事実については、原判決は被告人は磯田俊雄に対し選挙運動の報酬日当をこめて(不可分的に)合計金一、六〇〇円を供与した事実を認定した趣旨であることは、原判決の右事実摘示の項に「その報酬等として」との記載があるのと右事実に関する証拠説明とを対比すれば容易に会得せらるゝところであって、かゝる事実はまた原判決挙示の証拠により十分に認め得るところである。論旨は原判決は、右金員の全額が報酬として供与せられたものと認定したとの前提に立って原判決は証拠によらずして事実を認定した違法があると主張するものであって、畢竟原判決の趣旨を正解しないことに基くものというの外はない。論旨は理由がない。

同第三点について。

衆議院議員選挙法一一四条は、当選を得る目的をもって、選挙人又は選挙運動者に対し金錢その他の財産上の利益が供与せられた場合について、「收受シ……タル利益ハ之ヲ沒收ス」と規定しているのであって、同条は「利益收受者」に対する刑として沒收刑を規定しているのである。しかるに、原判決が沒收を言渡した押收の金八〇〇円は被告人が判示第一の(三)の事実により山室国雄に供与した一、〇〇〇円の内同人が消費せずに持っていたものであることは記録上明らかであって、被告人は右金員についての「利益收受者」ではなくまた、「利益收受者」山室国雄は本件の被告人ではないのであるから、本件において、同条によって、右金員を沒收する途のないことは当然である。しかも右金員は、判示第一の(三)のごとく同法一一二条所定の利益供与罪を組成する物であることは疑を容れないところであるから、右金員が被告人及びその共犯者以外に属しない以上(しかして、このことはまた記録上明らかである)刑法一九条に従ってこれを沒收することができるものといわなければならない。従って原判決が衆議院議員選挙法一一四条に依らず、刑法一九条に従って右金員を沒收したことは正当であって、論旨は理由がない。

弁護人三宅正太郎、伊能幹一の上告趣意第一点について。

原審において、弁護人から磯田俊雄を証人として喚問を請求したに対し、原審は、右請求を却下しながら原判決において、右磯田俊雄に対する司法警察官の聴取書を事実認定の証拠としていることは所論のとおりである。しかしながら同人は第一審においては被告人の共同被告人として終始同一公判において審理を受けたものであり、しかも第一審公判調書によれば右聴取書についても、被告人並びに磯田俊雄立会の公判において、証拠調が行われ判事は被告人等に対し右書類の要旨を告げた上「請求ニヨリ之等関係者ノ訊問ヲ為シ得ル旨…ヲ……告ゲタルニ被告人等ハ孰レモ無之旨」答えたことはあきらかである。即ち右聴取書については、既に第一審公判において被告人に対しその供述者たる磯田俊雄を訊問する機会は適法に与えられたものといわなければならない。けだし、被告人は公判期日において裁判長に告げ共同被告人を直接訊問する権利を有することは、刑訴応急措置法一一条二項の規定するところであるのみならず、第一審公判においては、右書類の証拠調に際し、特に被告人に対し、右書類の供述者を訊問できることを判事から告げられているからである。しかして、既に第一審において、供述者訊問の機会を与えられている以上、重ねて第二審においてその機会を与えることは同法第一二条の要求するところでないと解すべきであるから、原判決が右聴取書を証拠としたことをもって所論のごとく違法があるものとはいえないのである。論旨は理由がない。

同第二点について。

東京都制は昭和二二年五月三日施行の地方自治法により廃止されたのであるが、同年四月三〇日に行われた本件選挙に関しては、なほ同都制一七四条が適用せられ、従って、衆議院議員選挙法の罰則が準用せられるのは、地方自治法附則一二条の規定によるものであることは所論のとおりである。しかして、原判決は本件において右都制一七四条衆議院議員選挙法一一二条一項一号を適用処断したことは、原判文上明らかであって、これは、地方自治法附則一二条適用の結果であることはまたおのずから理解されるところである。原判決は右附則一二条の適用を明示していないけれども、判決には被告人の犯罪行為に適用すべき刑罰法規を摘示すれば足るのであって、新法施行に関する経過法規に過ぎない前記附則一二条のごときは、その適用されたことが判文上うかがわれるかぎり特にこれを判決に明示しなくとも、所論のごとく理由不備の違法があるということはできないのである。論旨は理由がない。

同第三点について。

原判決は、判示第一の(一)の事実認定の証拠として、被告人の原審公判廷第一審公判廷及び檢事廷における供述を掲げ、これら被告人の自白によって犯罪事実を認定していることは所論のとおりである。論旨は、被告人の自白のみを証拠とすることを以て憲法三八条三項、刑訴応急措置法一〇条三項に違反するものとするのであるが、裁判所がその直接審理した公判廷における被告人の自白を証拠とすることは、右憲法、刑訴応急措置法の各条項に反するものでないことは当裁判所の判例とするところであって、(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一五四四号、同二四年四月二〇日大法廷判決参照)弁護人の詳密な駁論にかゝわらず、今これを変更する必要を認めない。

よって、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上は、弁護人三宅正太郎、伊能幹一の上告趣意第三点に関し、裁判官塚崎直義、同沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂、同小谷勝重の各少数意見ある外、全裁判官一致の意見である。

裁判官塚崎直義、同沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂、同小谷勝重の少数意見は前掲昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決に記載のとおりである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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